キング＆バルーン(MSX)を改造しよう

方法１ ROMのプログラムにパッチを充てて動かしてしまえ（RAM64KB以上）

まず、スロットには何も入れずにBASICを起動させて、以下のプログラムを入力（またはロード）してください。



10 FOR I=&HD000 TO &HD049 20 READ A$:POKE I,VAL("&H"+A$):NEXT 30 PRINT"SET KING&BALLOON AND PUSH ANY KEY" 40 MS=3:SS=0:POKE&HD001,128+SS*4+MS 50 A$=INPUT$(1):DEFUSR=&HD000:A=USR(0) 100 DATA 3E,8F,26,40,CD,24,00,21 110 DATA 00,40,01,00,80,3E,01,C5 120 DATA CD,0C,00,C1,77,23,0B,78 130 DATA B1,20,F2,21,00,40,01,00 140 DATA 80,7E,FE,CD,20,15,23,7E 150 DATA FE,47,20,0E,23,7E,B7,20 160 DATA 08,3E,D0,77,2B,3E,45,77 170 DATA 23,2B,2B,23,0B,78,B1,20 180 DATA E0,2A,02,40,E9,CB,B9,C3 190 DATA 47,00


また、どのMSXでも動くようなプログラムを書くのはとても大変なので、今回は、自分の機種のみで動くプログラムを作成することにします。
自分の機種（実行したい機種）の、ページ１(4000H-7FFFH)のRAMのスロットを知っていることが前提となるので、知らない方は、マニュアルやweb、スロットチェッカーなどで調べてください。
何のことだかよくわからない方は、 MSXSlotInfoViewer を使って、自分の機種を選択し、ページ1のRAM（Normal RAM, Mapped RAM等)がどのスロットにあるかをチェックしましょう。
（ちなみに、代表的な機種のRAMのスロットですが、MSX2+以降の全機種は「スロット3-0」、FS-A1系のMSX2も「スロット3-0」、HB-F1系のMSX2は「スロット3-3」になります）

そして、RAMのスロット（メインスロット・サブスロット）の値を、40行のMSとSSの部分に記述してください。（スロット3-0なら MS=3:SS=0、スロット3-2ならMS=3:SS=2、というように）

RUNすると画面にメッセージが表示されるので、 電源を入れたまま、キング＆バルーンのROMを スロット１（※）に入れてから、何かキーを押してください（自己責任）
10秒ほど待つと、MSX2以降の機種でもキング＆バルーンが起動すると思います。

（※）110行の "3E" のあとの "01" がスロット番号になっています。もしスロット１以外で起動したい場合はこの値を変更してください。

方法２ ROM版を作ってしまえ

ROMを焼ける環境があるのであれば、とても簡単にMSX2対応キング＆バルーンが作れます。

キング＆バルーンのROMを吸い出したら、バイナリーエディタの置換機能などを利用して、 "CD 47 00" とデータが並んでいる箇所をすべて "CD F0 BF" に書き換えてください。



オフセット	元	新
+003CH-003DH	47H 00H	F0H BFH
+006EH-006FH	47H 00H	F0H BFH
+0083H-0084H	47H 00H	F0H BFH
+0094H-0095H	47H 00H	F0H BFH
+02A6H-02A7H	47H 00H	F0H BFH
+0C3AH-0C3BH	47H 00H	F0H BFH
+203CH-203DH	47H 00H	F0H BFH
+206EH-206FH	47H 00H	F0H BFH
+2083H-2084H	47H 00H	F0H BFH
+2094H-2095H	47H 00H	F0H BFH
+22A6H-22A7H	47H 00H	F0H BFH
+2C3AH-2C3BH	47H 00H	F0H BFH
+423FH-4240H	47H 00H	F0H BFH
+44E4H-44E5H	47H 00H	F0H BFH
+623FH-6240H	47H 00H	F0H BFH



そして、最後に以下の箇所を書き換えてください。



オフセット	元	新
+7FF0H-7FF4H	FFH FFH FFH FFH FFH	CBH B9H C3H 47H 00H


あとは書き換えたバイナリーをROMに焼けばOKです。
MSX1～turboRまで、すべてのMSXで動作するROMができると思います。

電源を入れた状態でROMを差すときのコツ

• PAUSEボタンがある機種は、必ずポーズ状態にしてから差しましょう。
• BASIC起動直後にROMを差し、そのあとでパッチプログラムを実行しても大丈夫なので、ROMの後差しに失敗しやすい人は、そうしたほうが良いと思います。

最後に

結局何をやっているのか、ということを書いておきます。

MSX版ギャラクシアンがMSX2で動かないのは「拡張スロット選択レジスタの破壊」が原因でしたが、MSX版キング＆バルーンが動かないのは、それとは全く異なる理由です。

ナムコのMSXソフトは、当時としてはなかなか先進的な作りをしていて、サブルーチンごとに32バイトのスタック（ワークエリア）をもっています。
それぞれのスタックは独立しているので、他への影響を考えて使う必要もないですし、各サブルーチンが自分で使うスタックをきちんと管理していれば安全ですし、さすがナムコ、といったところです。

しかし……。

スタックには、どうしても完璧に管理しきれない部分があります。

BIOSルーチンです。

MSXは、ハードウェアの互換性を保つため、各インターフェースにアクセスするにはシステムROMの中にあるBIOSルーチンをコールするように推奨されていますが、 BIOSは「コールするアドレス」と「動作の仕様」が決められているだけで、内部でどのような処理が行われているかは機種やバージョンによって異なるのです。

つまり、BIOSルーチン内でどれくらいスタックを使用しているかはわからないということになります。

キング＆バルーンがMSX2以降で動作しないのは、この「BIOSルーチンをコールした際のスタック溢れ」が原因なのでした。

… … …

ここで WRTVDP（MAIN-ROM:0047H）というBIOSルーチンについて触れておきます。

WRTVDP は、「VDPレジスタに値をセットする」というBIOSルーチンで、MSX1の場合、内部的には「VDPアクセス用ポートにデータを出力し、システムワークエリアに値をコピーする」というとても簡素な実装になっていて、スタックも2バイトしか使用しません。

しかし、これがMSX2になると大きく変わります。
MSX2のVDPは、大幅な機能追加に伴い、レジスタの数は50個近くまで増え（MSX1は#0～#7の8個）、レジスタの値が変更されたときにシステム側で行う処理も格段に複雑化しました。
WRTVDP も、基本的な仕様自体は変わっていないのですが、内部的には「セットしようとするVDPレジスタの番号を見て、MSX1互換レジスタ（#0～#7）の場合は今まで通りに振る舞い、MSX2で追加されたレジスタ（#8～）についてはMSX2専用の処理を行う」というような実装になりました。

特に、この「MSX2専用の処理」がとても重く、場合によっては全レジスタのPUSHやスロット切り替えなども行われたりするので、スタックの消費量も32バイトでは収まらなくなってしまったのです。

… … …

話を戻します。

キング＆バルーンはMSX1用のソフトなので、MSX2の本体で動かした場合でも、MSX1互換レジスタ（#0～#7）しか使用していません。
本来であれば、WRTVDPルーチン内での処理もMSX1とほぼ同じになり、スタックが32バイトから溢れることもないはずです。

しかし、キング＆バルーンには、バグがあります。

WRTVDPをコールする際に、なぜか レジスタ#4にアクセスすべき箇所のみ、レジスタ番号に「04H」ではなく「84H」が指定されている のです。

ちょっと細かい話になりますが、MSXからVDPレジスタにアクセスするには、以下のような手順を踏む必要があります。

1.「書き込むデータ」をVDPアクセス用ポートに出力
2.「書き込むレジスタ番号 OR 80H」をVDPアクセス用ポートに出力（OR=論理和）

MSX1のWRTVDPは、内部でこの処理を行っているわけですが、2. を見てもらうとわかる通り、「書き込むレジスタ番号」に「04H」を指定しても「84H」を指定しても、最終的には同じ結果になるのです。
そのため、キング＆バルーンは、レジスタ番号が間違っているにも関わらず、結果的には何の問題もなく動作してしまいます。

しかし、MSX2の WRTVDPは、1. の前に、

0.「書き込むレジスタ番号」が 8以上 の場合はMSX2専用レジスタと判断し、MSX2専用処理へジャンプする

という処理が加わります。

書き込むレジスタ番号に 04H ではなく 84H を指定してしまうと、レジスタ番号が 8以上 ということで、（本来そのような番号のレジスタはないのですが）とりあえず、スタックを山ほど消費するMSX2専用処理 に飛ばされます。 その結果、32バイトしかスタックを用意していないキング＆バルーンでは、想定外のスタック溢れを起こしてしまい、ハングアップしてしまうのです。

… … …

最後に、対応方法について書いておきます。

「レジスタ番号に 84H を指定している箇所をすべて 04H に修正する」でも良いのですが、直値でわかりやすく指定しているとも限らないので、
「レジスタ番号の最上位ビットをOFFにしてWRTVDPにジャンプする」というルーチンを新規に作り、WRTVDPをコールしていた箇所はすべてそちらに飛ぶように書き換えました。



: LD BC,0184H ;DATA=01H, VDPREG=84H(NG!) CALL WRTVDP_BIT7OFF ;Replaced "CALL WRTVDP" with this : RET WRTVDP_BIT7OFF: RES 7,C ;84H -> 04H JP WRTVDP ;jump WRTVDP


というわけで、長くなってしまいましたが、これでキング＆バルーンがMSX2以降でも動くようになったのでした。